Amazonが来春「ふるさと納税」に参入するというニュースが話題になっています。 このニュースレターをご覧の経営者の方々は、すでにふるさと納税を利用している方が多いのではないでしょうか。 現在、ふるさと納税の仲介サイト業界では、「さとふる」「ふるさとチョイス」「楽天ふるさと納税」「ふるなび」の国内大手4社がシェアを争っています。
「さとふる」はPayPay払いでポイントボーナス、「ふるさとチョイス」や「楽天ふるさと納税」は楽天ポイントの利用や決済時にポイント付与、「ふるなび」はふるなびコインやd払いでポイント付与など、各社が特徴的な特典を提供して利用を促しています。
ちなみに私はふるさと納税が始まった当初から「さとふる」を利用していました。選んだ理由は特にありませんが、広告戦略に影響されたという感じです。
今年の3月、Amazonがふるさと納税仲介サイト業に参入するニュースが新聞等で報じられました。Amazonはアメリカに本拠を置く巨大ECプラットフォームであり、その参入によって業界の勢力図が大きく変わる可能性があります。 なぜAmazonが参入を決めたのでしょうか? おそらく、ふるさと納税による寄付額が年々増加しており、昨年度は1兆円を超えたことが理由でしょう。 この1兆円市場に魅力を感じたのだと思います。
このニュースを受けて、「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクの親会社であるチェンジホールディングスや、「ふるなび」を手がけるアイモバイルの株価が3月にそれぞれ10%以上下落しました。 影響の大きさがうかがえます。
Amazonは、自治体へのプラン提案など営業を始めており、2つのプランを提供するそうです。 1つは、寄付額の10%程度を仲介手数料として自治体が支払う通常プラン。 もう1つは、初期手数料250万円を支払うことで仲介手数料を寄付額の3.8%に抑えられるプランです。 改めて、裏側はそんな仕組みになっているわけですね。
2019年の法改正により、ふるさと納税の経費に使える金額は制限されました。 返礼品の金額は寄付金額の3割まで、仲介サイトの手数料や送料なども含めた総経費は5割までとなっています。 例えば、寄付を1億円集める自治体であれば、返礼品に3,000万円、仲介サイト手数料に1,000万円を支払うと、残りの経費は1,000万円までしか使えません。 返礼品の開発や配送などを代行する中間事業者への支払いも考慮すると、初期手数料250万円は普通の自治体には負担が重いことになります。 つまり、Amazonのプランは、寄付額が多い自治体を優遇するものです。
仲介サイト業者の競争はどう変わるのでしょうか? 現状、大手4社の手数料率は10%前後でほぼ横並びです。 Amazonが「初期手数料250万円+3.8%」のプランを導入しても、寄付者が手数料率に大きな影響を受けることは少ないと言われています。 むしろ、ポイント還元やCMなどの認知度、他サービスとの連携がシェアを左右する要因となります。
では、Amazon参入の脅威とは何でしょうか?
1つは「物流」を握っていることです。 巨大EC事業者であるAmazonは独自の倉庫や配送網を持っています。 通常の商品物流にふるさと納税の返礼品を追加することが容易であり、既存の仲介サイトと比べてスピーディーな配送や費用負担の軽減が可能です。
もう1つは、手数料や物流費の負担が減ることで、同じ返礼品を得るのに必要な寄付金額が下がることです。 総経費が寄付金額の5割までという上限がある中で、返礼品以外の手数料や物流費を下げられれば、返礼品の調達費に上限の3割まで使いやすくなります。
実際、「ふるさとチョイス」が競合より低い手数料率(5%)で運営していた際、同じ自治体の同じ返礼品でも他社サイトより低い寄付金額で済むケースがありました。 Amazonがこうした「価格優位性」を持てば、利用者を獲得する可能性が高くなります。 Amazonの参入が業界にどのような影響を与えるのか、注目していきたいですね。
______________________ 経営コンサルタント 渡邉拓久