「遊べる本屋」ヴィレッジヴァンガード。
「ヴィレヴァン」の略称でも親しまれて、名古屋が拠点であることもよく知られていますが、このヴィレッジヴァンガードが、大きな赤字を出しながら低迷しているとのことです。
ヴィレヴァンの大きな特徴は、本やCD、DVDといった雑貨がジャンルレスにそこかしこに並べられ、まるで“雑多な倉庫”のようになっている店内空間です。
「本屋」ではあるのですが、CDやDVD、あるいは雑貨に洋服などなど…なんでもあり。 それぞれの商品にはその商品の魅力を伝えるPOPが書かれ、ちょっと面白いおどけた商品の宣伝が書いてあるのが特徴。
「ここにしかない」マニアックというかアンダーグランドというかサブカル的商品がたくさんあるのも魅力の一つだったと思います。
私も学生時代、ヴィレヴァンが大好きで愛知・岐阜・静岡など…当時は10数店舗しかなかったヴィレヴァンを巡った思い出があります。
現在は全国に307店舗を広げる上場企業です。 ただ数字的には…2023年11月中間決算によると、営業損失が7億4900万円、前年同期の1億7600万円の損失から赤字が大幅拡大してるのです。
既存店の数はここ数年で減り続けて、それによる単純な減収、そして人件費や物価高の影響も響いているようです。
売上高ベースで見ると、2016年5月期が最高収益のようで、約467億円(そのときも営業赤字は2億円ほど)。2007年に買収した中南米雑貨の「チチカカ」が、足を大きく引っ張っていたようですが、2017年には売却し、その後も黒字化と赤字転落を繰り返し、経営の足取りはふらついているようです。
そんなヴィレヴァンの店舗空間は、らしい「世界観」がそこに形成されていることです。
実際、「ヴィレヴァンっぽい」といったら、行ったことのある人はなんとなくそのニュアンスを理解できると思います。
ヴィレヴァンの成功のカギの一つが、このような独特な「世界」を空間的に作ったことにあると思います。 このヴィレヴァンの世界観を演出する空間戦略に、ここ十数年でいくつかの不調の原因が起こりつつあるのではないかと思うのです。
私なりに2つまとめてみると…
1つ目は、最近ではYouTuberやVtuberとのコラボレーション商品も多く並ぶ一方で、これまで通りのマイナーな文学作品や同人漫画などの取り扱いもあり、そうかと思えば売れ筋漫画も置いてあるといった風景で、ターゲティングがあやふやになっている感が否めないこと。
2つ目は、似た店舗作りの企業がありながら明暗が別れたことです。 ヴィレヴァンと空間的に類似しているのが、驚安の殿堂「ドン・キホーテ」です。ドンキもまた、複雑な通路を持ち、雑多な商品を多数販売しています。
また、宣伝POPも工夫されていて、「ヴィレヴァンらしさ」を感じさせています。 でも、ヴィレヴァンが低調な業績なのに対し、ドンキは非常に好調で、創業以来増収を続けているようです。
店舗空間という視点でみれば、似た世界観を持つ両社ですが、どこにその違いがあるのでしょうか。
ドンキは、「MEGAドンキ」というGMS業態(総合スーパー)の開発を進めて、一般的なスーパーのような店舗で“ドンキ特有”のごちゃついた空間はなく、スーパーのように区画がはっきりとわかるのが特徴です。
これら店舗は、地域住民から普通のスーパーとして使われ、GMSの分野で業績を上げてきたのです。
また、その立地場所に応じた業態の開発を多く進めて、従来の「世界観」を柔軟に変化させ、企業側の意図を強くは押し出さずに展開。 一般ウケしているということですね。
ヴィレヴァン創業者の菊地氏(現会長)が、自分自身の好きなものをなんでも店頭に並べて、それをオススメする形で始まった業態ということを考えれば、そこに興味を惹きつけてきた理由だったわけですが… ここまでの大きな企業になった以上は、なんとか時代に受け入れられるような店舗作りが迫られているわけです。
企業として大きくなったための問題点もあるのかと推測できます。 ある段階からイオンモールなどのショッピングモールへの出店を強めていっていることです。
私の印象では、モールを覗くと、そこにはヴィレヴァンが入っているイメージがあります。(実際に確認すると…イオンモールだけでも180店舗も入っています)
ショッピングモールへ出店するということは、モール側の取り決めの影響を受けるため、必然的にヴィレヴァンが持ってきた「サブカル」空間が薄まってしまいます。
失礼な言葉ですが、要するに「エッジ」が効いておらず中途半端になりがちなわけです。 それはヴィレヴァンらしさが失われてくることになります。
例えば、カルト宗教の本や、90年代若者に絶大な人気を集めた『完全自殺マニュアル』や『ドラッグ』系の書籍など…いわゆる「90年代サブカル」と呼ばれる書籍の取り扱いもあって、ここにしかないエッジの効いた展開をしていたわけです。
ドンキのようにマス市場に受ける業態展開ではないにしろ、エッジの効いたものを望む層もまだまだ多くいるのだと思います。
元々、ヴィレヴァンは立地を活かした経営をしていた過去があり、店舗の店長にかなりの商品選定の権限が与えられていることで有名でした。
そういう意味で、各店舗「エッジ」の効いた商品が並ぶ楽しさがあったのですが、POSシステムの導入で各店(店長)の独自商品を選定する裁量が無くなってきたということもあるそうです。
在庫管理や仕入ロスを考えれば仕方ない話ですが、ここにも低迷要因はありそうです。 ターゲティングを曖昧にさせず、そうした「エッジ」の効いた展開をどうにかして取り戻すことが、結局はヴィレヴァンが復活するために必要なのではないでしょうか。
大企業がためのジレンマなのかもしれないですね。
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経営コンサルタント
渡邉拓久