老舗企業も世の中の大きな変化に対して「抜本的な変化」を求められる流れがきているようです。 今回はその一例のお話として、イタリア発祥の老舗ブランド「エレッセ」についてです。 ほとんどの方がご存じだと思いますが、テニスで愛用されているカラフルなスポーツブランドというイメージで「ハーフボール」のロゴが目に浮かぶブランドですよね。
エレッセは日本におけるバブル期の代表的なブランドで、1980年代から大学生や若い世代の社会人の間で大流行したスキーやテニスで人気のスポーツブランドでした。 スキーウェアとテニスウェアは当時の若者たちから絶大な人気を集め、飛ぶように商品が売れたそうです。 街中では、エレッセのパーカーやトレーナー、ニットなどを好んで着る若者で溢れていました。現在国内では、以前にこのコラムで取り上げた「ザ・ノース・フェイス」で有名なゴールドウインが権利を有して事業を展開しています。 当時から30年の間に、エレッセは市場の急激な縮小を受けて、2011年にスキーウェアから撤退。残ったテニスとアパレルも売上は年々減少し、特に近年は販売不振が極まり、事業の継続が難しい状況にまで追い込まれていたようです。 今回の全面刷新は、まさに国内における「エレッセ」のブランドの存続をかけ、2023年の春にブランドの再スタートに踏み切るというものでした。 エレッセの元々の定番は原色を用いたカラフルな商品でしたが、そのイメージを一変。ブランドマークの「ハーフボールロゴ」の使用もやめたようです。 ブランドの象徴でもあるハーフボールのロゴをやめるぐらいの刷新とは、かなり大きな賭けですよね。 最新ウェアでは、自然界からインスピレーションを受けた“くすみカラー”を全面的に採用し、無地のミニマルデザインを基本にしたのです。 エレッセの公式サイトで商品を確認してみるとよく分かりますが、これまでのエレッセのイメージとは明らかに違う“オシャレ”な感じです。今までの常識にとらわれない全く新しい価値を持ったテニスウェアを提案することを目指したようです。この路線変更の裏には徹底的な市場調査があったようです。 他社のブランドを含めて既存のテニスウェアはどのブランドも似たようなウェアばかりで選択肢がなく、ファッション感度の高い女性からは、ヨガなど他用途のスポーツウェアを着用しているとの声が多かったそうです。 そこでエレッセは『スポーツウェアの美しさにこだわる』を新たなコンセプトとし、人間が感じる色の印象について大学と共同研究し、商品のデザインに反映。新エレッセが採用した《ややくすみがかった》特徴的なカラーは、着用した人がもっとも美しく見えるよう考え抜かれた色だそうです。 デザイン以外でも、UVカットや通気性などの機能は当然として、テニスのプレー中の動きを解析して、ラケットが振りやすく快適に動けるパターン設計を採用。 また、体を美しく見せるカッティングにも配慮し、素材自体も肌触りや質感のよいものを厳選。一部の商品はイタリアの特殊な機械で編んだ高級生地を使用するこだわりだそうです。 その分、価格設定も高くし、半袖シャツは1万円以上のものが大半(主要ブランドの中心価格帯が7,000〜9,000円台)のようです。もともと安い商品を売るブランドではなかったようですが、より高価格帯にシフトし、高くてもおしゃれで上質なものを求める層へ明確にターゲットを絞ったようです。 長年の不振が続く中でエレッセのブランド直営店はなくなり、現在の主販路は公式オンラインと一部の店舗に限られています。 事業の存続をかけて思い切ったブランド刷新に踏み切り、独自の路線を打ち出したエレッセ。このブランドが提案する新たなテニスウェアが、おしゃれなユーザーに受け入れられるか注目していきたいですね。
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クオリアグローバルマネジメント株式会社
代表取締役/経営コンサルタント
渡邉拓久
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